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いつものように暮らしていても
変革のときは訪れる
変革はどうすることも出来ない
なぜならそれは
すでに決められていることだから
とある荒廃した小さな村に人影はあった。
綺麗な薄い緑色に光を放つ髪と瞳をもった中肉中背といった風貌の青年。
その近くに金色の髪の毛に青年のものよりも深い緑色の瞳をもつ少女。
もう滅びたような村には遺跡のようなものがあり洞窟に続く祭壇があったりと文明を感じさせる。
青年と少女はその誰もいない村の一軒の家を掃除していた。
「こんなところで二人でいるからナックの奴大急ぎで仕事してるんだろうな。」
青年は楽しそうに小さく笑った。
「そんなことないわ。ナックはセシルのことを信じてるもの。」
「信じているのは俺じゃなくてノイッシュだろ。」
「ナックはセシルのことだってちゃんと信用してるわよ。」
「学生時代のよしみでか?」
「もう、どうしてそこまでひねくれるのかしら?」
「真っ直ぐには生きていけないだろ?」
何かの意味を含んだ笑顔をセシルと呼ばれた青年はノイッシュと呼ばれた少女に向けた。
ノイッシュは否定するように綺麗な笑顔を浮かべた。
「いいえ、セシルはとても真っ直ぐに生きているわ。うらやましいくらいに。」
セシルはやめてくれというようにその話題から背を向けた。
「でも、学生時代か〜。」
懐かしむようにノイッシュはつぶやいた。
「何年前のことだったかもう忘れちゃったな〜。」
「そうだな。」
ヘタをすればまだ学生に見える二人は会話の内容から推し量るに結構な歳のようだ。
「そろそろ祭壇の方の掃除をするか。」
「え?あそこは怖いわ。」
「何を・・・・・・あそこはお前を祭っているんだぞ。」
セシルは苦笑してさっさと祭壇に向かう。
その後ろをとことことノイッシュがついていった。
「そうだけど・・・・・・怖いものは怖いわ。」
「はあ、祭るだけ損だって気がしてきた。」
「私だって祭られて特別気がいいってわけでもないわ。」
「でも、掃除はしないとな。アークの生息地だし・・・・・・・・それにあそこに行ったほうが楽だし。」
セシルは少し沈んでいるようにも見える。
ノイッシュはそんなセシルを見て自分まで悲しい気持ちになった。
「ごめんなさい。」
「いや、ノイッシュが謝ることじゃない。最終的には俺が決めたことだ。」
「でも・・・」
「でもじゃない。俺がそんな弱い人間に見えるか?ノイッシュが知っているセシル・ウィズはそんなに弱い人間か?」
「いいえ、あなたはとても強い人・・・・・でもすごく繊細で・・・・・」
「何か勘違いしてるだろ?俺の心が繊細なのは深い傷を負っているから、それだけだ。」
「自分のことをまるで他人のように言うのね。」
「そういう風に生きてきたからな。」
二人は掃除しながらそんな会話をして祭壇を通って洞くつの内部も掃除していく。
実のところ掃除をしなくても特別には問題ない。
ただの気分でこの二人は掃除しているに過ぎない。
セシルは故郷のために実行している。
ノイッシュはセシルへの負い目のために手伝っている。
洞窟の最奥の神棚があるところへ行き着くと二人はまた会話を始めた。
「次の世界ではリーザさんに会えますよ。」
このことがセシルにとって嬉しいこととノイッシュは認識している。
案の定セシルはどことなく嬉しそうな表情である。
「そうか・・・・・・次の世界では闇に帰すものと戦わなくていいんだな?」
リーザと会えるという意味を正確に読み取りセシルは話を進める。
「はい。今回はエホババイブルを破棄してもらうことがあなたの役目ですから。」
「エホババイブル・・・・・・全知全能の神と自負する奴が書いた予定表か。」
「向こうでは死海文書と呼ばれていますし、何よりエホババイブルの一部でしかありません。」
「で?そいつらはそんなのを使って何をしようとしてるんだ?」
ノイッシュは少し悲しそうな表情を浮かべた。
セシルはとても嫌な予感がしてどうしたものか・・・・と内心少し沈んでしまった。
「世界を変える魔法を使うみたいです。」
ガン!っと衝撃をセシルは受けたような気分になってよろよろとよろめいた。
「演技過剰ですよ。」
「うるさいよ。それより世界を変える魔法なんてよほど母様に反抗したいと見える。」
セシルは見えないはずの空に視線を這わせる。
ノイッシュはあまりにも救いないわよね、とでも言い出しそうなほど痛々しい悲しい笑みを浮かべている。
「本当に・・・・・人間って愚かなんですね。」
「今に始まったことじゃないっていうのがさらに救いがたいな。でも、その人間に恋をしてるのはどこのどいつかな?」
ノイッシュはセシルの言葉を聴き顔を真っ赤にした。
面白いほど正直な反応に慣れているのかセシルは淡々と進める。
「本当にからかいがいのある奴・・・・・・・・」
いや、少々呆れているようだ。
「好きになってしまったものはしょうがないわ。」
「全く持ってその通りですよ。」
ノイッシュの反抗にセシルはすかさず同意する。
セシルはさっきから神棚をいじっている。
「・・・・・・・・・・本当にごめんなさい・・・・・・・・・・・」
「数日したらナックも来るだろう。ナックによろしく。」
セシルはノイッシュの呟きを無視して作業を続ける。
「はい。セシル・・・・くれぐれも気をつけて。」
「ああ、よし準備ができた。行ってくるよ。」
神棚でなにやら作業をしていたセシルだが、その作業が完了した。
この世界に別れを告げるための作業を滞りなく終わった。
神棚にある御神体にセシルが手を触れた真っ白な光があたりを包み込み、光がおさまったときにはその場にはノイッシュしか残っていなかった。
「どうか・・・・・救ってあげて・・・・・・」
一人残ったノイッシュは見たことも無い世界の住人のことを思い、女神の祈りを捧げた。
この女神は忘れていた。
たとえ芯では優しくても、本性では優しくても、表面はそうではないということに。
このセシルという青年は芯の部分を無視して表面の感情だけで動けるということを。
使命という鎖に繋がれているだけの哀れな人間だということに。
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